Y染色体微小欠失は、男性不妊症の遺伝学的原因のうち、クラインフェルター症候群に次いで2番目に多いことが知られています1)。Y染色体微小欠失分析では、Y染色体長腕上に存在するAZF(Azoospermia factor)領域の欠失の有無やその部位を診断します。AZF領域は造精機能を担っており、AZFa、AZFb、AZFcの3領域から構成されています。AZFcには、造精機能関連遺伝子であるDAZ(deletion in azoospermia)遺伝子が含まれています。
本検査は、男性不妊症の原因究明の一助となるだけでなく、その後の治療方針を考える上でも需要な情報となります1)2)。AZF領域の欠失の有無およびその部位の特定は、精巣内精子採取術(Testicular sperm extraction: TESE)による精子回収の可能性を予測することができます1)2)。
無精子症や乏精子症であり、TESEや細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection: ICSI)の実施を検討している患者。
無精子症や乏精子症の患者10%~15%に、Y染色体長腕上に存在するAZF領域の一部あるいは全体の欠失が認められます3)。
AZF領域の欠失部位とTESEによる精子回収成功率の関連性が知られており、欠失の有無およびその部位の特定により、精子回収の可能性を予測できます1)。AZFcの欠失では、精子形成能が残存しており、TESEによる精子回収成功率は50%~75%であることが報告されています2)。
AZFa、AZFbの完全欠失あるいはAZFb+cの完全欠失の場合はTESEの実施を推奨すべきでないため、ICSIやTESE/ICSIの受検者となりうる無精子症や高度乏精子症患者には、Y染色体微小欠失のスクリーニング検査が案内されるべきです。 |
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完全欠失部位 | 表現型 | TESEによる精子回収の可能性 |
AZFa | SCO*1症候群による無精子症 | 精巣内精子採取の可能性はない |
AZFb | SCO症候群や精子形成停止による無精子症 |
AZFb+c |
AZFc | 無精子症、乏精子症 | 精巣内精子採取の可能性があり、 ICSIにより挙児を得る可能性がある |
Promega. Technical Mannual. Y Chromosome Deletion Detection System. Version 2.0より引用
医療関係者用資料