医療関係者向け情報

  • Print this Page

羊水染色体分析およびRapid FISH™(間期核FISH法)

各種資料のダウンロードはこちら→

■豊富な経験と高い技術

●検体受領から染色体分析、結果報告までの一連の過程には、認定を受けた細胞遺伝学者や遺伝カウンセラーが携わっています。

●染色体分析およびい蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法の高い技術を有しており、複雑な検査結果への対応経験も豊富です。

■高い培養成功率

●培養成功率は99.8*です。

■専用の培地

●弊社が独自に開発した専用培地を使用しています。

*2006年から2008年に弊社が受託した検体より

羊水の染色体分析方法について1)

羊水染色体分析とRapid FISH™

通常行われる羊水の染色体分析は2つに分類されます。1つは、胎児細胞を培養してG分染法で染色体を分析する方法です。もう1つは、培養せず細胞周期の間期核の細胞に蛍光in situ.ハイブリダイゼーション(FISH)を行う方法です。

細胞を培養して染色体を分析する方法は、分染方法名で呼ばれる場合もありますが、この資料では細胞を培養して染色体を分析する方法を便宜的に羊水染色体分析(P3参照)、間期核の細胞で分析する方法をRapid FISH™(P4参照)と呼びます。

Rapid FISH™は13番、18番、21番、XおよびY染色体の数的異常を検出するスクリーニング検査であり、確定診断となる染色体分析G分染法に追加することができます。

分類 位置づけ 所要日数 対象となる染色体異常
数的異常 構造異常 モザイク
13番・18番・
21番染色体・
Xおよび
Y染色体
その他染色体 全ての染色体
①染色体分析方法
(G分染法)
確定診断 14日
②Rapid FISH™
(間期核FISH法)
スクリーニング検査 5日 × ×*

○:検出できます。 ×:検出できません。
*13番・18番・21番染色体、XおよびY染色体の構造異常およびモザイクは検出されることもあります。

適応例

日本産婦人科学会では、侵襲的な出生前検査および診断(胎児試料、母体血中胎児由来細胞を用いた検査を含む)については、下記のような場合の妊娠について、ご夫婦からの希望があり、検査の意義について十分な遺伝カウンセリング等による理解が得られた場合に行うとしています。

  • 1)夫婦のいずれかが、染色体異常の保因者である場合
  • 2)染色体異常症に罹患した児を妊娠、分娩した既往を有する場合
  • 3)高齢妊娠の場合
  • 4)妊娠が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
  • 5)夫婦の両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
  • 6)夫婦の一方もしくは両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
  • 7)その他、胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合
留意事項
  • 羊水穿刺により最終的に流産や胎児死亡に至る確率は0.2~0.3%(1/300~1/500)程度といわれています。1)
  • 羊水染色体分析は遺伝学的検査です。検査実施の前には被検者への遺伝カウンセリングを行い、インフォームドコンセントを取得してください。
  • 日本産婦人科科学会「出生前に行われる検査および診断に関する見解」では、「胎児の性別告知については出生前診断として取り扱う場合は症例ごとに慎重に判断する」とあることにご留意ください。

羊水染色体分析

培養した胎児細胞をG分染法にて染色体を分析し、全染色体の数的異常および構造異常を検出します。

検査方法

in situ法(培養用カバーガラスあるいはシャーレ上で細胞を培養し直接標本を作成する方法)により羊水中の胎児細胞を培養してG分染法で核型分析を行います。

in situ法による培養
羊水を遠心沈殿して得た細胞に培養液を加えて細胞浮遊液を作成し、シャーレ上で細胞を培養します。細胞が十分に増殖したら、コルヒチン処理をして細胞分裂を停止させます。細胞分裂中期(細胞周期において染色体が観察できる期間)の細胞をシャーレ上で固定して染色体標本をします。

in situ法の利点

  • シャーレ上で培養した羊水中の胎児細胞をそのまま固定して染色体標本を作成するため、コロニーごとに核型を分析することができ、モザイクの分析精度が高い。
  • 短い培養時間で細胞を分裂像を確認することができるため、フラスコ法に比べて短い所要時間で分析が可能。
  • フラスコ法でのトリプシンによる細胞回収操作がないため、細胞の消失の軽減化が可能。

in situでは、良い標本を作成するために工夫と熟練が必要です。弊社米国検査所では、ACMG(American College of Medical Genetics)等の認定取得者と熟練した技術を持ち合わせた検査技師等が、検体処理ならびに結果の分析を行っています。

②G分染法による染色
作成した標本をトリプシン処理しライト・ギムザ染色をします。G分染法により、各染色体に特徴的なパンドパターンを得ることができます。このパンドパターンによって各染色体を識別して、数的異常や構造異常の有無を分析します。

染色体とは

正常男性核型の核型写真の例
留意事項
  • 羊水染色体分析では、微細な染色体異常や遺伝子レベルの異常、低レベルのモザイクを診断することはできません。

Rapid FISH™とは2)

Rapid FISH™は、細胞周期の間期核の細胞に13番、18番、21番、XおよびY染色体に対する蛍光標識プローブを加えて、in situハイブリダイゼーション(FISH)を行う方法です。13番、18番、21番、XおよびY染色体の数的異常を迅速に検出するスクリーニング検査です。

Rapid FISH™は、羊水染色体分析を実施する場合にのみ追加できる検査です。Rapid FISH™の結果確認および13番、18番、21番、XおよびY染色体以外の染色体異常の検出のため、羊水中の胎児細胞の培養による染色体分析を並行して実施する必要があります。

Rapid FISH™の特徴
  • Rapid FISH™では、出生前診断で認められる染色体異常の65~70%を検出できます。3)
    35歳以上の高齢妊娠の場合は、染色体不分離が生じる可能性が増加することから、出生前診断で見つかる染色体異常の約80%3)を検出できます。
  • 13番、18番、21番、XおよびY染色体の数的異常の有無を約5日で報告します。羊水染色体分析の結果報告に先立って、羊水染色体分析を受けた方への予備的な情報を迅速に提供できます。
  • 羊水染色体分析の細胞培養が不成功で結果を報告できない場合に、診療の補足的情報となります。

 

適応例
  • 13番、18番、21番、XおよびY染色体の数的異常を迅速に調べる必要がある場合。
    例えば、以下のような症例では、Rapid FISH™を実施することがあります。
  • 妊娠後期
  • 超音波所見で異常が認められた場合
  • 母体血清マーカー検査(クアトロテスト®)でスクリーニング陽性であった場合
  • ご夫婦の一方が13番または21番染色体を含むロバートソン転座の保因者である場合
留意事項
  • Rapid FISH™は、13番、18番、21番、XおよびY染色体の数的異常を検出するスクリーニング検査です。確定診断には羊水染色体分析の結果をお待ちください。
  • Rapid FISH™では、構造異常、モザイク、対象となる5つの染色体以外の数的異常など、出生前診断で認められる染色体異常の約30~35%は検出できません。3)
  • Rapid FISH™では以下の理由により検査結果を判定できない場合が約2.8%あります。
    (「uninformative」と報告されます)4)
  • 検体量の不足(検体中に含まれる胎児細胞の不足)
  • 母体血液の混入(胎児が女児の場合には、母体細胞と胎児細胞の区別ができないため)
  • 異常細胞の正常細胞の割合が弊社米国検査所の規定外の場合(「基準値および判定基準」を参照)
検査方法
  • 蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH法)
    末培養の間期核(細胞周期において分裂までの準備期間)の羊水細胞に13番、18番、21番、XおよびY染色体の特定のゲノム配列に結合する蛍光標識プローブを加えてin situハイブリダイゼーションを行います。その後、蛍光顕微鏡で蛍光シグナルの数を計測します。

●各染色体のプローブ結合部位

●結合例と結果の解釈

正常結果(男児)の場合
13番、18番、21番染色体のプローブが2個ずつ検出されています。XおよびY染色体のプローブしゃ1個ずつ検出されており、性別は男児となります。

報告例
NO EVIDENCE OF NUMERCAL ABNORMALITY for chromosomes 13, 18, 21, and Y
Sex: Male

染色体とは

異常結果(ダウン症候群の男児)の場合
13番、18番染色体のプローブが2個ずつ検出されています。
21番染色体については、プローブが3個認められており、ダウン症候群であることがわかります。XおよびY染色体のプローブは1個ずつ検出されており、性別は男児となります。

報告例
PATTERN CONSISTENT WITH trisomy21(DOWN SYNDROME)
Sex: Male

染色体とは

  • 基準値および判定基準

プローブ毎に50細胞のシグナルを計数します。
異常なシグナル数の細胞の割合に基づいて、右表のように判定します。

異常シグナル 判定
60%以上 異常(陽性)
10%以下 正常(陰性)
11%~59% 不能
  • 精度

弊社米国検査所にて、Rapid FISH™と羊水染色体分析を行った40,000件以上の結果の解析から、Rapid FISH™は偽陽性*1や偽陰性*2になる場合があり、診断は確定ではありません。

陽性結果の正診率 99.83% Rapid FISH™では異常結果(陽性)でG分染法でも同じ異常結果
陰性結果の正診率 99.96% Rapid FISH™では正常結果(陰性)でG分染法でも正常結果、ただしRapid FISH™では検出できない染色体の異常を認めることはあります。

*1 胎児が対象となる染色体異常ではないにもかかわらず陽性となる場合
*2 胎児が対象となる染色体異常であるにもかかわらず陰性となる場合

参考データ

日本では、1年間に約1万件の羊水染色体分析が実施されているといわれています。2006年から2008年に弊社が受託した10,975件の羊水染色体分析で、培養が成功した10,949件(99.8%)の結果をまとめました。

染色体異常の頻度

培養が成功し結果が得られた10,949件のうち、7.3%が染色体異常でした。なお、正常核型の男女比は、男性:女性=1.01:1.00となりました(表1)。

表1.染色体異常の頻度

  割合 件数
正常核型 92.7% 10,147
46, XY
46, XX
50.3%
49.7%
5,099
5,048
異常核型 7.3% 802
染色体異常の内訳


図1.染色体異常の内訳

図1のように、染色体異常の約70%を常染色体トリソミーが占めていました。以下、構造異常(12.3%), 性染色体異常(11.2%)となりました。

表2では、染色体トリソミーの内訳を示しています。頻度が高い順に、21トリソミー(50.7%)、18トリソミー(6.4%)となり、21トリソミーと18トリソミーが常染色体トリミーの90%異常を占めました。

表3のように、構造異常は、均衡型が50.5%、不均衡型が49.5%となりました。それぞれの詳細は表3に示しています。

表4のように、性染色体異常は、約50%が45,X(モザイク例を含む)でした。

 

表2.常染色体トリソミーの内訳

  常染色体トリソミー
に占める割合
件数
21トリソミー 50.7% 294
18トリソミー 42.6% 247
13トリソミー 6.4% 37
そのほか 0.3% 2

表3.構造異常の内役

  構造異常
に占める割合
件数

均衡型

相互転座
ロバートソン転座
逆位
そのほか

50.5%
29.3%
10.1%
9.1%
2.0%
50
29
10
9
2

不均衡型

付加染色体
欠失
相互転座
ロバートソン転座
マーカー染色体
同腕染色体
そのほか

49.5%
14.1%
12.1%
8.1%
7.1%
3.0%
2.0%
3.0%
49
14
12
8
7
3
2
3

表4.性染色体異常の内訳

  性染色体異常に
占める割合
件数
45, X 51.1% 46
47, XXX 22.2% 20
47, XXY 18.9% 17
47, XYY 6.7% 6
48, XXXY 1.1% 1
妊婦年齢と染色体異常の頻度

表5では、妊婦年齢別の染色体異常の頻度を示しています。35歳を基準とすると、35歳未満では染色体異常が9.5%、35歳以上では6.4%となり、35歳未満の方が染色体異常の割合が高くなりました。
図2を見ると、妊婦の年齢が高いほど染色体異常に占める常染色体トリソミーの割合が高くなっていました。40歳以上では常染色体トリソミーが80%以上となりました。

表5.妊婦年齢別の染色体異常の頻度

妊婦年齢 % 異常核型 全件数

35歳未満

25歳未満
25~29歳
30~34歳
9.5%
11.9%
11.3%
8.4%
304
28
96
180
3,212
235
848
2,129

30歳以上

35~39歳
40歳以上
6.4%
6.1%
7.1%
498
316
182
7,737
5,187
2,550
合計 7.3% 802 10,949

図2.妊婦年齢別の染色体異常の内訳

検査理由と染色体異常の頻度
■検査理由の内訳

図3のように、検査理由を35歳以上の高齢妊婦、超音波異常、母体血清マーカー検査スクリーニング陽性、染色体異常の家族歴に分類しました。約94%がいずれかに該当し、高齢妊娠のみが最も多く、約半数を占めていました。続いて超音波異常(21.5%)母体血清マーカー検査スクリーニング陽性(17.9%)、染色体異常の家族歴(6.5%)となりました。なお、超音波異常の約半数をNT(Nuchal Translucency)が占めていました。

■検査理由と染色体異常の割合

35歳以上と35歳未満の群に分けて、検査理由別の染色体異常の頻度を調べました(表6)。いずれの群においても超音波異常での染色体異常の頻度が最も多く、特に35歳以上では34.0%となりました。

図3.検査理由の内訳

表6.検査理由と染色体異常の割合

検査理由 35歳以上 35歳未満
% 異常核型の件数 全件数 % 異常核型の件数 全件数

すべての適応
高齢妊娠のみ
超音波異常
母体血清マーカー検査スクリーニング陽性
染色体異常の家族歴

6.3
2.7
34.0
5.1
1.5
506
140
286
74
6
7,982
5,280
841
1,463
398
11.5
-
15.7
3.6
3.9
267
-
237
18
12
2,318
-
1,505
502
311

受託要領

検査項目名 羊水染色体分析
Rapid FISH™付羊水染色体分析
検体必要量 羊水 20ml
採取容器 羊水専用滅菌容器
検体の採取条件 母体細胞の混入を防ぐため、羊水穿刺後の1~2mlは廃棄してください。
羊水検体は遠心しないでください。
検体の保存条件 冷蔵
所要日数 羊水染色体分析:約14日
Rapid FISH™:約5日
(ラボコープ・ジャパンにて検体を受領した日より起算)
備考 本検査は、Laboratory Corporation of America® Holdings(米国)の子会社であるEsoterix Genetic Laboratories, LLCで実施します。
参考文献

1) Invasive Prenatal Testing for Aneuploidy. ACOG Practice Bulletin No.88. Obstet Gynecol. 2007;110:1459-1467

2) American College of Medical Genetics. Prenatal Interphase Fluorescence In Situ Hybridization (FISH) Policy statement. Am J Hum Genet. 1993;53:526-527

3)Test and Technology Transfer Committee. Technical and clinical assessment of fluorescence in situ hybridization: An ACMG/ASHG position statement. I. Technical considerations. Genet Med. 2000;2:356-361

4) Tepperberg J. et al. Prenatal diagnosis using interphase fluorescence in situ hybridization(FISH): 2-year multi-center retrospective study and review of the literature. Prenat Diagn. 2001;21:293-301.

通知等

  • 日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」2011年2月
  • 日本産婦人科学会「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」2013年6月

医療関係者用資料